【インタビュー】ヨーロッパ企画代表・上田誠氏の「配信に込める思い」
【インタビュー】ヨーロッパ企画代表・上田誠氏の「配信に込める思い」
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2019/05/17
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【インタビュー】ヨーロッパ企画代表・上田誠氏の「配信に込める思い」

U-NEXTでは5月10日に、劇団・ヨーロッパ企画の映像作品第3弾・計12作品を配信開始し、ラインアップが計20作品に達しました。

京都を拠点に活動をする人気劇団・ヨーロッパ企画は、1998年の結成以来、一貫してコメディを上演し、DVDやテレビ番組制作、ラジオ、WEB企画など、多方面にわたってコンテンツを制作されてきました。舞台公演の一方で、彼らが精力的に行っているのが、ショートフィルムの制作です。コツコツ撮りためてきた数は、実に200本以上。それらのお披露目の場として、5月18日(土)からは「第10回ショートショートムービーフェスティバル」東京大会、6月15日から21日まで「ヨーロッパ企画の京都ニューシネマvol.6」を開催予定です。

さまざまなドラマや映画で、目にすることの増えた「ヨーロッパ企画」。U-NEXTでは、気軽にヨーロッパ企画の作品に出会っていただくべく、今後もさまざまな作品を配信してまいります。またU-NEXTとともに「デジタル解禁」というチャレンジをしてくださったヨーロッパ企画代表の上田誠氏(以下、敬称略)に、配信に込める思いをお聞きしました。

作る側の主語が強いほど映画はおもしろくなる

ヨーロッパ企画さんは多彩な顔を持っており、劇団の世界では非常に有名です。今回、ヨーロッパ企画さんの作品はU-NEXTで「デジタル初解禁」となり、第1弾「タイムトラベル」、第2弾「ファンタジー」と、ゆるやかにテーマで作品を括らせていただきました。初めて観る方はどの作品から観始めるのがいいでしょう。

上田:永野(宗典)さんのクレイアニメ『黄金』は独白の多い思弁的な映画です。諏訪(雅)さんの『マスマティックな夕暮れ』は、本人が写真を趣味にしていることもあり、画の風合いや構図が素晴らしくて。原案が僕で、メンバーも出ているので、ヨーロッパ企画初心者の方にもおすすめの作品です。

上田さんご自身が監督されているのは『ハウリング』という作品です。テレビの中から「2分後の俺だ」と主張する自分と会話する男性の姿をCGなしで11分間の長回しで見せるという、ソリッドなタイムトリックムービーですね。

上田:例えばピタゴラスイッチ装置の映像って、以前の映像業界では、どこかマイノリティだったと思うんです。でも動画が出始めたころから、そうした映像トリック系の作品が勢力を増してきたような気がして。僕はお芝居でも“企画性コメディ”といって、迷路やだまし絵などの仕掛けに重きを置いて劇を作っています。「普通、演劇でそれはやらないだろう」みたいな思いつきをどうしたら形にできるか考えるのは、割と僕の得意とするところで。『ハウリング』も、テレビの中の自分と会話する仕掛けをつきつめて映画にしたらこうなる!という一点突破型の作品。演劇でもそうですが、ものを作る過程で“何のために作っているのか?”という動機が見えなくなることがある。でもこの仕掛けありきの作り方なら、アイデアの出どころがはっきりしているからブレないんです。

第2弾までは、「舞台もやれば映画も撮る」という劇団の自己紹介的な立ち位置に見えます。一方、5月10日に配信されたばかりの第3弾は、メンバーの個性が凝縮された5分以内の短編の見本市とでもいうのでしょうか。いずれもヨーロッパ企画さんが主催されている映画祭「ショートショートムービーフェスティバル」で上映された作品ですよね。

上田:そうですね。5分という限られた時間の中でお客さんをどう惹きつけるか。大会での戦いを通して、そのタフさが次第に身についてきたように感じています。

昔の作品であるほど、荒削りながらも初期衝動や映画づくりの純粋な喜びに満ちているようにも感じます。

上田:ビデオカメラを使い4:3サイズで撮っていたころ、「自分たちで映画を撮っている!」という感覚が確かにありました。今観ても、映画黎明期の熱と近いものを感じます。それに、僕らのショートフィルムって、映画らしい映画だとも思っていて。というのも、僕自身、映画の脚本を書くときは富士山の5合目から参加しているようで、自分の手の届かないこともあります。一方、1から自分たちで作るショートフィルムは、やれること、やれないことが形になっています。誰に頼まれたものでもない、“自分たちの映画”。その主語が強ければ強いほど、作品はおもしろくなると思っています。

そういう意味でも、ヨーロッパ企画さんの魅力・特色がもっとも現れた作品群といえそうですね。

“つまみ食い”感覚で楽しむ!可能性を秘めた短編映画

ヨーロッパ企画さんは京都を拠点に活動してらっしゃいます。それだけに、配信には可能性を感じてくれているそうですね。

上田:そうですね。オリジナルで映画を作る場合、映画館に足を運んでもらう導線があるかは大事なポイントです。「映画館で事件が起きているらしい」という質感を持ち、重装備しないと戦えないですからね。その点、配信はその質量が限りなくゼロに近い。観る人は“つまみ食い感覚”で楽しめるし、作り手はもっと軽やかに作品を撮れるはず。短編には短編の喜びがあるんですよね。配信は尺が短いほど良いという世界でもあり、それって大きな逆転だと思うんです。そういう意味で、U-NEXTのラインナップは僕らの最前線とも言えるかもしれません。

そうですね、ヨーロッパ企画さんの純度が高いようにも感じます。

上田:余談ですが、僕、サムネイルにめちゃくちゃワクワクするんです(笑)。画面が小さくなって並んでいる光景が好きで、もっと加えたいと思っています。しかも僕らはタイトルも凝っているからサムネイル映えするものばかり。ぜひジャケ買い感覚で、ヨーロッパ企画の作品に出会ってもらえたら嬉しいうれしいです。

サムネイルに着目されてくれている方は、相当ツウです(笑)。ありがとうございます。ヨーロッパ企画さんをご存知な方もそうでない方も、サムネイルで出会ってぜひ“つまみ食い”をしてみていただきたいですね。

 

 

うえだ・まこと/1979年生まれ。1998年にヨーロッパ企画を旗揚げし、全すべての公演の脚本、演出を担当。テレビやラジオの企画、構成も手がけるほか、『ペンギン・ハイウェイ』(’18)など映画の脚本家としても活躍。